第98話「ねぇ…教えて?」

久しぶりに都電に乗る機会があった。
鉄道が充実し、車も多く走る東京で、路面を電車が走るのはどこか情緒的で、忙しない東京にいることを忘れさせてくれる。
と、街中を走る都電を眺めていると思うが、実際に乗る場合はそんな悠長なことは言ってられない。
通勤手段としての都電は実にもどかしい。
信号待ちがあり、区間は短くて停車駅も多い。また、高齢者が利用する機会も多いため、通勤時間帯は時刻表通りになかなか到着しないこともある。雨の日ならなおさらだ。
明日は通勤時間帯に路面電車に乗って目的地へ行かなければならない。外部の仕事。絶対に遅刻は出来ないし、最後に到着したときの申し訳なさは何とも言えない。
私はいつも以上に神経をとがらせて翌日乗る電車のスケジュールを確認した。
目的地への集合時間は8時20分。目的地の最寄り駅から目的地までは徒歩10分。
つまり、遅くとも8時10分着までの電車に乗らなければならない。
時刻表を確認すると8時9分着の便がある。本来ならこの電車に乗ればいいが、通勤時間帯の都電は遅れることを知っている。学生時代の私の経験則がその油断を許さない。
ココは1本前の8時5分着の電車に乗った方がいいに決まっている。
と、一般的には考えるだろう。甘い、甘いぞそこの君。
忘れてはいけない、明日は雨だって言ったろう?
雨の日の都電は絶対に遅れるのだ。私はそれを知っている。
つまり、ここでの正解は8時5分着の電車ではなく、さらに1本前の8時00分着なのだ。
仮に時刻表通り電車が動くなら、それは集合10分前に到着できることになるし、予想通り時刻表から遅れてしまっても10分の余白がある。
完璧だ。完璧すぎる。今夜は安心して眠れそうだ。
翌朝。思いっきり寝坊した。
…なんてことはない。ちゃんと起きた。
天気は予報通りの雨。想定内。
しっかり朝ご飯も食べ、自宅の最寄り駅では予定した電車に乗り、都電の停車駅までの乗り換えもスムーズだった。想定内。
予定通り、8時00分着の都電に乗れた。通勤ラッシュに加えて雨が降り、都電は徐々に到着予定よりも遅れていく。想定内。
最終的に目的地へは8時5分過ぎに到着した。
「ほらな」
私は誇らしげに電車を降り、目的地までの道のり約10分を歩いた。
雨にも負けず、風にも負けず歩くその姿は、恵まれない環境の中にいる人間とは思えないほど堂々としていた。
目的地の建物が見えてきた。時計を見るともうすぐ8時15分。
遅刻しないどころか、集合時間よりも5分早く到着することが出来た。
「おはようございます!」
建物の入り口で先に到着していた方々に挨拶を済ませ、トントンと心地よい音を立て、私は傘についた滴を落とす。
全てが想定内。あとは8時20分の集合時間まで待つだけだ。
「これでみなさん揃いましたね。じゃあ建物の中に入りましょう」
教えてください。集合時間って何ですか?

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